2012.11.08
心に残るキーワードとインパクトのあるアプローチが大事
取材:医療法人社団協友会
東大宮総合病院
久保田巧事務長
◆◇ 概要 ◇◆
埼玉県といえば、人口あたりの医師数、看護師数が最も少ない都道府県だ。 2010年現在、人口10万人あたりの就業医師数は全国平均が219人なのに対し、埼玉県は142.6人※1。 同じく就業看護師数は全国平均744人に対し、埼玉県は486.9人※2と、顕著に少ない。そんな埼玉県にありながら、 毎年医師を10人ほど採用し、看護師に至っては「コンスタントに応募があり、人数を増やしている」という病院がある。 それが、医療法人協友会東大宮総合病院だ。 <INDEX> 【1】明確なターゲットに向けてメッセージをつくる 【2】病院の印象をつくるのは人“その人ならでは”の言葉を送る 【3】紹介会社の評価、検索順位で知ってもらう機会を最大限に 【4】赴任一年目の看護師採用中途が10人から45人に 【5】超急性期の新病院に向けて“増やす”から“選ぶ”に |
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┏━┓ ┃[1] 明確なターゲットに向けてメッセージをつくる ┗━━━━━━━───────────────── 「大切なのは、印象に残すこと」。 そう話すのは、東大宮総合病院:「戦略人事室」を指揮する久保田巧事務長。 そして、印象に残る情報を伝えるには、「印象に残したい相手がどんな人なのか、何にニーズがあるのか」、 ターゲットを見極める必要がある。「多くの急性期病院は大学病院と同じようにターゲットを考えていますよね。 でも、民間病院と大学病院ではやっぱりレベルが違いますから、かないません。 看護師さんで言えば、当院のような民間病院で働きたいという人は、“スーパーナース”ではなく、『大学病院や 超急性期病院で働くには自信がないけれど、急性期の病院がいい』『急性期から慢性期までの地域医療に携わりたい』という、“傷つきナース”が大きなターゲットなんです」当然、その中でスーパーナースを獲得することも視野にいれるが、 戦略を一緒にしてはいけない。 ここで誤解のないように補足すると、傷つきナースとは、十分に能力はあるけれど、上司に恵まれなかったり、 人間関係でちょっと躓いたり、出産や育児でブランクがあるなど、超急性期で働くには気持ちの面で自信がないという 看護師のこと。そうした看護師の中には、気持ちの優しい、優秀な人がたくさんいる。 同院の看護師採用パンフレットを見ると、「良好な人間関係」「コミュニケーションを大切に」「働きやすい」 「ワークライフバランス」「地域の急性期医療」など、傷つきナースに向けた言葉が散りばめられている。 こうしたキーワードは、応募ナースのアンケート調査から抽出されたものだという。 ≫≫ 「ターゲットを見極める」というのは、医師の採用においても同じ。 ≪≪ 「“スーパードクター”はなかなかきませんから、『優秀だけれど、ライフも大切にする医師』に焦点を置いた募集要項も つくっています」「当直ナシ」「週4日勤務可」「フレックスタイム」を謳った求人広告。子育て中の女性など、生活の時間も 大切にする医師を支援するため、働き方一つひとつを商品化する。そうすると、ウリが明確なので選ばれやすいという。 「現場と調整しながら、私はこうした新しい働き方となる商品を開発することにかなりの時間をかけています」と久保田事務長。 |
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┏━┓ ┃[2] 病院の印象をつくるのは人“その人ならでは”の言葉を送る ┗━━━━━━━───────────────── 問い合わせや応募者への対応でも、印象に残るメッセージが大事、と久保田氏は言う。そこで必ず入れるようにしているのが、「その応募者ならではの話題」と「採用担当者の人柄が感じられる言葉」だ。 たとえば、県外の応募者であれば、病院のパンフレットや募集要項に加えて、埼玉の話題が載っている院内広報なども同封してあげる。また、感染症看護専門看護師から問合せがあった際は、久保田事務長の指示で、院内の感染委員会の全議事録と感染マニュアルを同封した上で、「チームワークがよい」と伝えるだけでなく、次のようなメッセージを添えた。 「感染管理については、医師の協力を得られない病院が多いと聞きますが、当院では医師も積極的ですし仲良くやっています。ぜひ一度感染委員会のラウンドを見学にいらっしゃいませんか。チームワークのよいメンバーだと確信していただけると思います」 このほかにも、採用が決まった後も、手書きの一言を添えた年賀状を送ったり、新卒者であれば国家試験が近づいた頃に「お元気ですか?」とメールを送ったりと、「心を込めた」対応を心がけている。 「誰に対しても同じ、当たり前の言葉だけではなく、『働きやすい、優しい病院』ということがわかるような何かを必ず入れるようにしています。戦略人事室には、『もらった人がにっこりしちゃうようなものを必ず一つは入れることで、印象を残しなさい』と常々伝えています」 看護師も医師も全国的に不足しているなかで、採用競争は激化している。差別化が必要と言っても、病院という形態上、仕事内容に大きな差があるわけではない。そうしたなかで「何を持って差別化するか、印象に残すか」という答えが、「その応募者ならではの話題」と「採用担当者の人柄が感じられる言葉」というわけだ。 |
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┏━┓ ┃[3] 紹介会社の評価、検索順位で知ってもらう機会を最大限に ┗━━━━━━━───────────────── ここまでは、「応募者をいかに惹きつけるか」「問い合わせや病院見学につなげるか」という戦略だが、一方で、同院では「入り口を広げる」戦略も打っている。 その一つが、人材紹介会社のアウトカムを比較するということ。ページビューや問い合わせ件数、資料請求件数などを指標に各社を評価し、それに応じてコンタクトの度合いを変える。採用担当者にもマンパワーの限界があるために、その中で最大の効果を上げるための方法をとっている。 また、「看護師 採用」「看護師 募集 埼玉」などのキーワードで検索をかけて、新たに上位に上がってくる求職サイトがあれば、求人広告の掲載を自ら依頼する。検索順位は、時間とともに変化していくので、戦略人事室が定期的に検索して、常に最新の情報を把握しておくことも重要な活動である。こうした形で、人材紹介会社の質を各指標から客観的に判断し、評価の高い会社に対しては、自ら事務所を訪ね、病院の魅力やウリを営業担当者に直接伝えているという。 「病院の説明を長々と書いても伝わらないでしょう。ですから、7項目くらいにPRポイントをまとめるんです。『ここを伝えてもらえれば、売れやすいので』と説明すると、営業担当者さんの頭にすっと入っていきます。担当者に理解しやすく、その先の応募者にも伝えやすくすることが重要です。 それぞれの人材紹介会社の担当者は、多くの病院から依頼を受けているので、記録よりも、『記憶』が勝負ですよね。記憶が薄れないように、定期的に会社を訪問して伝えるようにしています」また、自院のホームページが検索されやすいよう、SEOと呼ばれる対策も採っている。具体的には、「看護師 埼玉 募集」といったキーワードでYahooで検索すると必ず1ページ目に表示されるよう、インターネット広告を利用している。 |
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┏━┓ ┃[4] 赴任一年目の看護師採用中途が10人から45人に ┗━━━━━━━───────────────── 現在、同院では、医師は年間10人前後、看護師は中途で約70人、新卒で30人弱の採用に成功している。 しかし、久保田事務長が赴任した平成18年以前は、看護師の中途採用で「年間10人が精一杯」という病院だったという。それが赴任一年目で45人、平成20年にはコンスタントに毎年中途で70名以上採用できるまでに増加した背景には、さまざまな工夫があった。 一つは、看護師専任の採用担当者を据えたこと。その担当者に、募集要項を持って、人材紹介会社を営業訪問してもらった。さらに、採用面接や病院見学などのコーディネート業務を看護部長から戦略人事担当者に移し、担当者にPHSを持たせて、人材紹介会社の営業担当者からの問い合わせにすぐに回答できる体制を整えた。 「東大宮に聞けば、すぐに回答が得られる」という安心感を与えることで、「まず、あそこに聞いてみよう」という関係を築けるからだ。このほか、看護部独自のホームページや看護部長ブログも立ち上げた。 |
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┏━┓ ┃[5] 超急性期の新病院に向けて“増やす”から“選ぶ”に ┗━━━━━━━───────────────── そして今年、特に力を入れたのは新卒看護師の採用だ。看護学生向けの就職雑誌5誌に求人広告を掲載したほか、最もアクセスの多い就職情報サイトのトップ画面に半年間バナーを貼った。露出にお金をかけた一方、就職フォーラムでは、スタッフ一人ひとりにiPadを持たせ、画像を使って説明を行うなど、他との差別化を図った。「iPadを持っているのは東大宮」と印象付けることと説明内容を標準化することが狙いだ。こうした戦略のおかげで、8月には来春入職の新卒枠定員の26人が決まり、その後は、応募を断っている状況という。 ここまで新卒採用に力を注いだ 背景には、「2014年の新築移転に向けて、より良い看護師さんを集めたい」という想いがある。新卒の場合、教育期間が必要だが、数年経てば十分に力を発揮してくれるようになる。しかも、「育ててもらった」という想いから、ずっと残って病院を支えてくれることが多い。 「教育担当の看護師からは、クオリティを維持するために『1病棟4人まで』と言われているので、それ以上は増やせませんが、新卒を多く受け入れられる文化をつくりたいと思っています」一方、中途採用に関しても、ターゲット戦略として管理職用の募集要項を作ったり、「脳外科病棟」「手術室」など、希望を選べるようにし、安心感を与える求人広告にし、専門性や経験、モチベーションの高い人に出会える工夫を行っている。 新病院では、回復期リハビリテーション病棟を一般病床にシフトし、全317床が一般病床になり、ICUも完備され、急性期病院としての質が上がる一方、さいたま市初となる緩和ケア病棟もつくる予定。機能を支えるのは、人だ。同院の戦略的採用は、「ただ数を増やすのではなく、ターゲットを絞って選ぶ」フェーズに変わってきている。 ※1 平成22年(2010年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 ※2 平成22年度我が国の保健統計 |
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